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第3話 天使の指先、獅子の絶頂

last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-02 18:45:01

 俺の奥で、何かが崩れた音がした。

 プライドか、恐怖か、それとも別の何かか。

 ハルがすっと身を離し、ノアに視線を投げた。

「下を脱がせて」と、静かだが有無を言わさぬ口調で命じる。

 ノアは一瞬目を細め、唇の端に欲を滲ませた笑みを浮かべると、ゆっくりと俺のズボンに手を伸ばす。その指先が布を滑り落とすたび、俺の肌に冷たい空気が触れる。

「くそ、殺すぞ……!」

 低く唸るように声を上げ、握り潰した拳が震える。

 だが、手足は拘束されていて動かすことはできない。

 部屋にいる全員の視線が、まるで獲物を値踏みするように俺に絡みつく。

 ノアの目は特に鋭く、欲望と嘲りが混じった光を帯び、俺の剥き出しになった肌を這うように見つめる。

 ハルの視線は冷たく、どこか計算高く、俺の反応を観察しているようだ。

 ハルがポケットから小瓶を取り出した。淡い香りのする液体を、指にたっぷりと馴染ませる。その仕草だけが、唯一の優しさのように見えて、逆に胸の奥を締めつける。

「初めてなんだから、ちゃんと用意してあげないとね」

 そう言って、潤滑に濡れた指が、俺の奥へゆっくりと入り込む。押し広げられる感覚に、胃が締め付けられるような吐き気を覚える。

 気持ち悪いはずだ――こんな異物が身体に入ってくるなんて、耐え難いはずなのに。

 だが、指が内壁を擦り、優しく円を描くたび、身体が勝手にビクンと跳ねる。

 羞恥と快感の境目が溶け合い、頭の中が白く濁っていく。

 そして、ハルの指がさらに奥、感じたことのない一点に触れ、ゆっくりと撫で上げられた途端、目の前がちかちかと明滅する。電流のような衝撃が背筋を駆け抜け、意識が一瞬飛ぶような感覚に襲われる。

「や……め……っ、あっ……♡」

 奥の奥まで掻き回されるたび、身体が裏切るように熱を帯び、俺の意志とは無関係に反応してしまう。

 気持ち悪いはずが、どこかで抗えない甘さが広がっていく。

「嘘……だろ……俺が……こんな……っ」

 絞り出すような声が漏れる。

 片目から涙がひと筋、勝手にこぼれた。

 拭おうともしない。拭けなかった。

 屈辱で顔が焼ける。

 泣いていることにすら気づかないほど、悔しくて、惨めだった。

「あ……ん♡」

 さらに中をかき回されて、口から洩れた自分の声に、自分が一番驚いた。

「可愛い」 

 ハルが、確かにそう呟く。指で俺の頬を撫で、涙を舌で吸い取った。冷たい舌先が、頬を滑る感触に背筋が震える。

 サミュエルの手にわずかに力が入り、指先が震えている。ギルは一瞬だけ視線をそらし、でもすぐまた俺の身体へと視線を戻してきた。ノアにいたっては、唇をきつく噛みしめたまま、その目に──明確な欲が宿っていた。

「レオン、僕だけ見て。ほら、息を整えて……」 

 そう言いながら、ハルが俺の奥を優しく、しかし執拗に掻き回す。

 びくっ、びくん──

 身体が勝手に反応して、ピアノの縁に背中がきしむ。月光に晒された俺の裸の腰、そのすぐ脇を、サミュエルとギルが固く見つめている。

「……や、だ……っ、見んな……見るな……ッ」

 声は震えて、もはや懇願だった。けどハルの声は、優しいままだ。

「大丈夫。見せていいんだよ、君は綺麗だから」

 その言葉と同時に、指が俺の奥の一点を強く押し当て、ゆっくりと擦り上げた。

 指の腹が敏感な壁を抉るたび、熱い疼きが電流のように背筋を駆け抜け、内側を溶かす。

 俺の身体がびくんと跳ね、息が詰まる。

「ひっ……あっ……♡ だ、め……っ、そこ……っ! やめ……っ!」

 視界が白く弾け、頭の奥で何かが砕け散る。

 指が容赦なく円を描きながら奥を抉り、甘い波が何度も押し寄せる。

 最初は小さな痙攣だった。

 それが一気に膨れ上がり、腹の奥から熱い塊がせり上がってくる。

 腰が勝手に浮き、背中が弓なりに反る。

 指がさらに深く沈み、敏感な一点を執拗に擦り上げるたび、俺の声が裏返る。

「はぁっ……♡ あっ、あぁっ……! い、いく……っ! ハル、ダメっ……♡」

 ――頂点が、爆発した。

 内側がびくびくと収縮し、熱い蜜が勢いよく溢れ出す。指を伝って、太腿の内側をぬるりと滑り落ちる。滴るというより、零れて股間を濡らす。

 身体が小刻みに痙攣し、指がまだ奥で動くたび、余波が何度も襲う。

 息が白く、視界が揺れる。

 俺の指先まで痺れ、頭の中が真っ白になる。

 涙が頬を伝い、喘ぎ声が途切れ途切れにこぼれる。

 指だけで、こんなに――頂点を越えさせられてしまった。

「……あっ……♡ は、る……っ……♡」

 涙と喘ぎ声が同時にこぼれ落ちる。

 ハルが俺の頬に唇を寄せ、舌を這わせて涙を舐め取った。温かく湿った感触が、火照った肌をさらに煽る。

 俺の身体はまだ小刻みに震え、余韻に浸っていた。

「綺麗だよ、レオンくん。初めてで、こんなに素直に感じて……可愛い。もっと見せて? 君の全部、俺だけに」

 サミュエルが唾を飲み、ギルが顔を背ける。ノアは震えながら見ている。月光が、俺たちのすべてを照らし出していた。

 ハルは少し離れて、息をひとつ吐いた。

 熱を帯びた吐息が白く揺れ、唇がわずかに弧を描く。

 その笑みには、勝者の余裕と、どこか慈悲めいた残酷さが同居していた。

「ねえ、レオン……どうしてほしい? 入れてほしい?」

 囁くように問われたその言葉に、脳が一瞬焼き切れる。

「……っ、ふざけんな……っ」

 かろうじて声を絞り出すと、ハルがくすりと笑った。

「強情だね。──まだ楽しめそう」

 そして、不意に指が抜けた。

 ぬるり、と内側からゆっくり引き抜かれる感触。

 そのわずかな動きだけで、俺の身体はびくんと跳ねた。

「──っ……あ、っ……♡」

 抜けた穴から、空気がひやりと入り込み、そこがじんじんと疼く。

 中が火照ったまま晒される感覚に、思わず腰が震える。

 空っぽになった身体が、逆に熱を求めてうずくまろうとする。

 頭の奥がぼうっと白くなり、わけがわからなくなる。

(……やばい、今の……ただ、抜いただけなのに……っ)

 羞恥と快感の余韻がないまぜになって、喉奥から熱い息が漏れる。

 まるで一度ピークを越えた後のような、痺れた心地が全身を包んでいた。

 ハルは乱れた袖口を整えながら、わずかに肩をすくめて笑った。

 その視線が、まだ俺の身体の奥を、舌先でまさぐっているようで──

(……終わってない。あいつの中では、何も)

 俺の中にあった熱は、奪われたはずなのに、

 今にもまた溢れそうなほど、渦を巻いて残っていた。

 ハルの目には、まだ終わっていない愉悦が灯っていた。

***

 ──気づけば、気配はもうなかった。

 サミュエルも、ギルも、ノアも、そしてハルも、いつのまにか去っている。

 残されたのは、乱れた衣服と、冷えきった空気と、俺ひとりだけ。

 ……くそ、ぜってぇ許さねぇ。

 身体は震えてるのに、頭の奥で燃えてるのは、悔しさと、悔しさと──悔しさだ。

 絶対に、こいつに負けたままなんて、終わらせねぇ。

 それだけは、決めていた。

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